カエサルのいうとおり(人はなぜ偽造カードを買ってしまうのか)。

 先日、不幸なことにまたネット上での偽造カード販売詐欺事件が起こりました。 

 

 マジック界には偽造カードが存在しており、個人売買には偽造カードを掴まされるリスクがあることは周知の事実です。

 また販売者は曰く付きの人物であり、カード画像からも「粗悪な偽造カードである」と多くの人が指摘して警鐘を鳴らしていました。

 

 にもかかわらず。

 複数の人物が被害に遭った。

 

 今回の一件は巧妙な詐欺事件のそれではありません。一般的な常識と知性を持った大人なら、いや、もっと率直に言えば、中学生ですら引っかかるとは思えない。

 

 そうは言っても、現にこの手の安易な偽造カード販売詐欺被害は後を絶ちません。

「なんでこんなミエミエの詐欺に引っかかるんだ?」と不思議に思う人も多いかと思います。

 

 なぜこの手の被害者は、偽造カードを買ってしまうのでしょうか?

 

 彼らの知性が中学生以下だから?

 

 違います。

 彼らとて、自分が買うカードが絶対に本物だと思って買っているわけではないはずです。

 

 では、なぜ買ってしまうのか?

 

 それはひとえに、彼らが「『このカードは本物だ』と信じたがっている」から、です。

 

「本物だと思う」と「本物だと信じたがっている」は似ているようでまるで違います。

 前者は「判断=理屈」に起因するものであり、後者は「願望=感情」によるものだからです。

 

 そして、人間は感情の生き物です。

「本物だと信じたい」という感情を抱いている人間に対して、「○○という点から偽物である」という理屈で対抗しても、残念ながら効き目はありません。「犬が好きだから飼いたい」という人間に「犬は散歩が大変だから猫にした方がいい」と言っても効果がないのと同じです。

 

 これは偽造カード詐欺に限らず、他の詐欺(マルチ商法、エセ健康食品、カルト宗教等)であっても構造は同様です。

 

 詐欺以外でも、例えば近年の禁止カード頻出に対するウィザーズ叩きにもこの構造は当てはまります。

 ウィザーズを叩いている人たちは、「『本来、ウィザーズにはテストプレイによって環境を健全に保つ力があり、現状の禁止カード頻出は新社長による利益第一主義の結果である。よって、ウィザーズおよび新社長を叩いて利益第一主義を改めさせれば、旧来の健全な環境が戻ってくるはずである』と信じたがっている」わけであり、だからこそ、「事はそう単純ではない」とデータを示して理屈を解いても、彼らは聞く耳を持たないわけです(まあ信じたい気持ちはわかりますが……)。

 

 こういった構造を、カエサルは2000年以上前に的確に言い表しました。

 曰く「人は見たいものしか見ない」。

 さすがに偉人は違いますね。

 

 では、偽造カード詐欺に遭おうとしている人の目を覚ますにはどうすればいいのでしょうか?

 

 残念ながら、目を覚ます方法はありません。

 あなたがその人物の無二の親友ならブン殴るなりでどうにかできるかもしれませんが、せいぜいネット上の知り合い程度であれば、できることはないと言っていい。下手に止めようものなら関係を悪化させる危険性すらある。

 感情の前に理屈はあまりに無力です。悲しいですね……。

 

 できることと言えば、騙された後に優しくしてあげることくらいでしょう。

 偽造カード詐欺に遭う人は元々騙されやすい人でしょうから、たかが数万円で社会勉強ができたと思えばラッキーかもしれません。

 少なくとも、騙された人を馬鹿にするのはやめましょう。騙された人は金銭面に加えて精神面でもダメージを負ってるわけで、何も傷口に塩を塗りこむ必要はないですからね。